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1-3 手続き

last update Last Updated: 2025-02-25 22:48:10

――翌朝

 朱莉は暗い気分で布団から起き上がった。昨日は以前からお休みを貰う約束を勤め先の缶詰工場には伝えていたのだが、今朝は突然の休暇願に社長に電話越しに怒られてしまったのだ。結局母の体調が思わしくないので……と言うと、不承不承納得してくれたのだが……。

「これで会社を辞めるって言ったら……どんな顔されるんだろう」

溜息をつくと、着替えを済ませて洗濯をしながらトーストにミルク、サラダとシンプルな朝食を食べた。

 洗濯物を干し終えて時計を見ると既に8時45分になろうとしている。

「大変っ! 急がないと10時の約束に間に合わないかも!」

朱莉は慌てて家を飛び出し、鳴海の会社に到着したのは9時50分だった。

(よ、良かった……間に合った……)

早速受付に行くと、朱莉と殆ど年齢が変わらない2人の女性が座っていた。

「あの……須藤朱莉と申しますが……」

そこから先は何と言おうと考えていると、受付の女性が笑顔を見せる。

「はい、お話は伺っております。人材派遣会社の方ですね。今担当者をお呼びしますので少々お待ちください」

受付嬢は電話を掛けた。

(え? 人材派遣会社……? あ……ひょっとすると私の素性を知られるのを恐れて……?)

受付嬢は電話を切ると朱莉に説明した。

「5分程で担当の者が参りますので、あちらのソファでお掛けになってお待ち下さい」

女性の示した先にはガラス張りのロビーの側にソファが並べられていた。

朱莉は頭をさげると、ソファに座った。

(素敵な会社だな……。大きくて、綺麗で……あの人たちのお給料はどれくらいなんだろう。きっと正社員で私よりもずっといいお給料貰っているんだろうな……)

そう考えると、ますます自分が惨めに思えてきた。昨日の面接がまさか偽造結婚の相手を決める為の物だったとは。挙句に翔が朱莉に放った言葉。

『そうでなければ……君のような人材に声をかけるはずはない』

あの時の言葉が朱莉の中で蘇ってくる。そう、所詮このような大企業は朱莉のように学歴も無ければ、何の資格も持たない人間では所詮入社等出来るはずが無かったのだ。

その時、昨日面接時に対応した時と同じ男性がこちらへ向かって歩いてくるのが見えた。

「お待たせ致しました。須藤朱莉様。お話は社長の方から伺っております。では早速ご案内させいただきますね」

「はい、よろしくお願いいたします」

挨拶を交わすと琢磨は先頭に立って歩き始めた。そして後ろを黙ってついてくる朱莉をチラリと見る。

(あ~あ……。可哀そうに……。昨日はまだ希望に満ちた目をしていたのに今日はまるで別人の様だ。あいつは明日香ちゃん以外の女性にはあたりがきついからな……。だけどあんな気の強い女の何処がいいんだろう? 俺だったらやっぱりそんなに美人じゃ無くても気立ての良い女の方がいいけどな)

その時、背後から朱莉が声をかけてきた。

「あの……副社長は本日もお忙しいのでしょうか?」

「ええ、そうですね。一応ここの会社の副社長ですからね。分刻みのスケジュールで動いていますよ」

「そうでしたか。……それでは昨日は申し訳ない事をしてしまいましたね。私の為に時間を割く事になってしまって……」

「いえ、それは気になさらなくて大丈夫ですよ。その為に昨日はスケジュールを空けておいたのですから」

(何だ? 随分自虐的な言い方をするな……?)

琢磨はチラリと朱莉に視線を送ったが、その目は虚ろで元気が無かった。

(おいおい……勘弁してくれよ。この偽造結婚でノイローゼにでもなって自殺されたらかなわないじゃないか……)

そして琢磨は小さくため息をつくのだった。

****

 案内された部屋は小さな会議室だった。琢磨は椅子に座るように朱莉に言うと、紙袋を持ってきた。

「では須藤様。副社長に昨日言われて、貴方の為にご用意させていただきました。今後の生活に必要な物です。一緒に確認させて頂きますね」

琢磨は紙袋の中身を全て出すと、一つ一つ朱莉に説明していく。まずは提示されたブラックカード、そして新しいスマホや、ネットバンキング、新しく済むマンションのパンフレット等々……。最後に渡されたのが……。

「ではこちらがお2人の婚姻届けになっております。もう副社長は記入が済んでおりますので、後は須藤様が記名していただければ手続きは完了となります。ご印鑑はお持ちですか?」

「は、はい……」

「さようでございますか。それでは記入をお願いいたします」

朱莉は、まるでアンケート用紙に記入をお願いしますと言われたような気分で婚姻届けを見下ろした。…実は朱莉は結婚に対して強い憧れを抱いていたのだ。

朱莉の両親は誰から見てもそれは仲睦まじい夫婦であった。お互いを思いやり、正に理想の夫婦像であった。だから父が亡くなった時の母の悲しみは尋常ではない程だった。その精神的ショックから身体体調をくずしてしまった。それでも身を粉にして働き……とうとう入院しなければならない程にまで身体を壊してしまったのだった。

だからこそ朱莉は両親のように素敵な伴侶を見つけて、素敵な家族を作り末永く幸せに暮らしていきたいと思っていたのだが……。

(まさか……私の結婚が……偽の契約結婚になるなんて……)

「どうしましたか? 須藤様」

(まさかここにきて婚姻届けにサインするの拒否するつもりじゃないだろうな……?)

顔に笑みを浮かべながらも琢磨は非常に焦っていた。

「あ、申し訳ございません。少しボーッとしてしまって……すぐにサインしますね」

朱莉は婚姻届けに目を落すと、そこに自分の名前、印鑑を押した。

「はい、どうもありがうございました。既にこちらのスマホに副社長の連絡先を入れてありますので、今後はこちらをお使いになられて連絡を取り合って下い。婚姻届けはこちらで提出しますので、受理されましたら私供から連絡を入れさせて頂きます。あ、申し遅れましたが私の名前は九条琢磨と申します。副社長の第一秘書を務めさせて頂いております。今後、私からも何かとご連絡を入れさせて頂く事がありますので、私の連絡先も登録させて頂いております。何か御不明な点がございましたらメールをご利用下さい」

「分かりました。どうもありがとうございます。あの……ところで私はいつから引っ越しをすれば宜しいのでしょうか?」

朱莉は引っ越し手続きが一番心配だったのだ。

「須藤様はご家族と同居されているのですか?」

「いいえ、1人暮らしです」

「住んでいる場所は持ち家でしょうか? それとも賃貸でしょうか?」

「賃貸です」

「さようでございますか」

(くそっ! なんだよ、翔はこの話知っていたのか? 賃貸ならすぐに引っ越し手続きするのは手間じゃ無いかよ!)

琢磨は翔に出来るだけ早くに朱莉をマンションに移す様に指示されていたのだ。

「あの……どうかしましたか?」

「あ、いえ。大丈夫です。それでは須藤様がスムーズに引っ越しする事が出来ますように私もお手伝いさせて頂きますね」

それを聞いた朱莉は頭を下げた。

****

「どうもいろいろと有難うございました」

出口まで案内してくれた琢磨に丁寧に頭を下げると朱莉は去って行った。

その後ろ姿を見送りながら、琢磨は心の中で毒づいていた。

(全く翔の奴め……! こっちの仕事を増やしやがって……! 覚えていろよ!)

そして踵を返すと、琢磨は翔のいる社長室へと向かった。一言、いや、二言物申す為に――

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  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   <スピンオフ> 第4章 大企業の御曹司 4

     今日は蓮と栞のお見合い当日だった。「全く……結局お見合いするつもりなのね? あれ程私が反対したって言うのに」ワンピース姿のまどかはお見合いが行われるホテルのエントランスに置かれたソファに座り、サングラスをかけて観葉植物の陰に隠れるように蓮がやって来るのを待っていた。一方その頃。簾も同じ場所で、まどかから少し距離を置いた場所で栞がやって来るのをやきもきしながら待ち構えていた。「くっそ~……栞の奴……俺というものがありながら……」しかし、これは簾の勝手な言い分である。栞と簾はあくまで幼稚園の頃からの腐れ縁で、2人はあくまで幼馴染。付き合ったことなど一度もない。……少なくとも栞はそう考えていた。こうして、まどかと簾は2人の見合いを邪魔する目的で、同じ場所でまどかは蓮を……そして簾は栞がやって来るのを待ち構えていた――****午前11時―「ここか……見合いの場所は」カジュアルなサマージャケットスーツ姿の蓮が見合いの場所であるホテルへとやって来た。(確か、待ち合わせ場所は1Fにあるカフェ『ブレイク』っていう店名だったな……)蓮はエントランスでじっと自分を見張っているまどかに気付かない様子で、待ち合わせ場所にあるカフェに向かった。(お兄ちゃん……見ていなさいよ。お見合いなんかぶち壊してやるんだから!)まどかはスクッと立ち上がると、距離を空けて蓮の後を追った。「あ! 栞……やってきたな!?」蓮がカフェへ向かった約5分後、栞がホテルへ現れた。品のよい、紺色のワンピース姿に同じく青いパンプスを履き、ショルダーバックを下げた栞を見て簾は悔しそうにつぶやく。「くっそ~栞の奴……俺と会う時はあんなお洒落な恰好してきたことなんかないのに……」簾が知る栞は、いつもビジネススースに身を包んでいるか、ジーンズ姿と言うラフな姿しか見せてこなかったので不愉快で仕方がない。「あの男の為か? 俺と同じ名前のあいつとの見合いの為にお洒落してきたって言う訳か?」しかし、これは簾のあまりにも身勝手な考えである。仮にもホテルのカフェで見合いなのに普段着で来れるはず等ないのだから。栞も簾に気付くことも無く、目の前を素通りしてカフェへと向かっていく。そして同じように後をつける簾。こうして4人の思惑が絡んだ見合いが始まることとなった――**** 一足先にカフェへ

  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   <スピンオフ> 第4章 大企業の御曹司 3

    「とにかく、もう遅いから今夜はここに泊って行ってもいいけど明日はちゃんと家に帰るんだよ? 父さんと母さんが心配するから」「分かったわよ」まどかは口をとがらせながらクッションを抱えた。「そういえば、まどか。夜ご飯は食べたのかい?」「ううん、まだよ。だって帰ったら早々にお父さんとお母さんからお兄ちゃんのお見合いの話聞かされたんだもの」「もう20時だっていうのにまだ食事をしていなかったのか? それじゃ何か用意するから待っておいで」蓮は対面式のキッチンに立つと食事の用意を始めた。「本当? やったー! お兄ちゃんの料理はおいしいからね。あ、もちろんお母さんもおいしいけど」「まどか、なんで夜ご飯まだだったんだ?」料理をしながら尋ねる蓮。「今日はね、突然シフトが変わってバイトの時間が変更になっちゃったのよ」まどかは大企業の社長令嬢でありながら、ゲームセンターでアルバイトをしているのだ。バイト仲間にはもちろんそのことは秘密にしてある。「そうか、偉いな。バイトして……。でも勉強も頑張るんだぞ?」「うん。だけどお兄ちゃんも学生時代ずっとファミレスでアルバイトしてたじゃない」「まあね。父さんから社会勉強の為に自分でバイトを探して働くように言われたからね。でもそのおかげで料理の腕が鍛えられたよ」料理を続ける蓮。「そうだよ……これだよ……」唇を尖らせるまどか。「何が?」「お兄ちゃんが格好良すぎるのいけないんだよ! 顔もよし、性格も頭もよし! おまけに背は高くて女性に優しく、料理も得意。だから私はその辺の男の子たちじゃ物足りないんだよ! 今まで男の子と付き合っても3か月持ったことないんだからね!? やっぱり責任取って結婚してよ!」「無茶言うなよ………」蓮はため息をつく。「だったら一生誰とも結婚しないで独身でいてよ! そしたら許してあげる!」「……結婚か……。う~ん…そればかりは相手次第だからな……」真面目な蓮は真剣に考えながら答える。別に蓮は今すぐ誰かと結婚をしたいわけではないが、何年たっても仲睦まじい両親を見ていると、自分もああいう夫婦関係になれればと憧れはある。「はい、出来たよ」蓮は対面式のキッチンから腕を伸ばし、カウンターテーブルの上に料理の乗った皿をトンと置いた。「嘘!? もう出来たの!?」ソファから降りてきたまどかはテーブルの上

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